肺塞栓症研究会 代表世話人 ご挨拶

肺塞栓症研究会 代表世話人
小林 隆夫
(浜松医療センター 名誉院長)

 この度、白土邦男先生の後を受けて、新しく肺塞栓症研究会の代表世話人にご指名いただきました。

 平成6年に発足した本研究会は、初代代表世話人杉本恒明先生、二代目中野赳先生、三代目白土邦男先生のお力をもちまして大きく発展を遂げ、平成29年11月20日現在の正会員数は308名であり、毎年開かれます学術集会研究会も本年で24回目を迎えました。来年はいよいよ25周年となります。

 肺塞栓症は、わが国においては従来から極めて稀な疾患とされてきましたが、生活習慣の欧米化、診断機器の進歩、本疾患に対する認識の高まりなどにより、わが国における肺塞栓症の頻度は確実に増加しており、この事実は肺塞栓症研究会の行った全国調査でも明らかになっています。このような中で、肺塞栓症研究会と日本血栓止血学会が中心となって他の8つの学会と共に作成した静脈血栓塞栓症予防ガイドラインが平成14年に公表され、さらには「肺血栓塞栓症予防管理料」が予防としてはじめて保険診療として認められたため、全国津々浦々まで本症に対する関心が一気に高まり、臨床の現場において肺塞栓症発症予防処置が講じられるようになりました。日本麻酔科学会の調査によれば1万の手術に対する周術期肺塞栓症の発症は3.2件程度と減少し、死亡率も11%程度まで低下してきました。しかし、周術期に発症する肺塞栓症はわが国全体の20%にも満たず、80%以上は非周術期の肺塞栓症、すなわち、内科入院患者や慢性期の入院患者などに発症しています。今後は、内科入院患者に対する予防をどうするかという大きな課題にも取り組む必要性があるでしょう。

 また、平成16年に発生した新潟県中越地震をはじめ平成23年の東日本大震災、平成28年の熊本地震などにおいて震災被災者に肺塞栓症、いわゆるエコノミークラス症候群が発症し、大きな社会問題となりました。こうした中、災害避難時の予防対策を積極的に啓発し、被災現場には弾性ストッキングも提供し、エコノミークラス症候群予防対策に貢献してきました。このようにわが国の肺塞栓症に対する本研究会の貢献度は極めて大きいものと自負しております。

 しかし、わが国の死亡率は欧米に比べるとまだまだ高く、致死性肺塞栓症に対する適切な治療法をどうするかという問題は未だに十分には解決されておりません。個々の肺塞栓症症例の病態を早期に的確に把握し、それに基づく適切な治療法の選択は今後も大きな研究課題として残ると思います。近年は抗凝固薬として直接経口抗凝固薬(DOAC)が脚光を浴びており、われわれは新たな治療の選択肢を手にすることができました。DOACをどのように、またいつまで投与するかについても様々な研究が行われており、今後結論が待たれるところでもあります。

 肺塞栓症死亡率を減らすためには、適切なリスク評価とそれに基づく適切な予防対策、発症時の早期診断と早期治療、さらには再発予防に尽きると思います。新たな薬剤の登場に加え、診断機器や治療機器も目覚ましい進歩をとげています。本研究会発足25周年を迎え、今後残された多くの課題をどのような形で解決していくのか、真摯に向き合わなければなりません。今まで本研究会の発展にご尽力されてきました多くの先生方の全面的なご協力を仰ぎながら、これらの課題を本研究会会員の先生方と共に少しでも解決できればと願っております。

 今後とも本研究会発展のため努力してまいる所存でございますので、何卒ご協力の程宜しくお願い申し上げます。

平成29年11月